夏休み…、日本中の高速道路が1000円でベロベロに渋滞するなか、炎天下の東名高速道上り車線でそこのけそこのけとばかりに東京をめざすパトカーの一群があった。そしてそのパトカー軍を追跡するように、報道のヘリが飛び交う。
なにを隠そう、パトカーの車群の中心のワンボックス型警察車両の中には、覚醒剤取締法違反で指名手配されていた、酒井のりP容疑者の姿があった。
両脇を警察官に挟まれ、手首に食い込む手錠の冷たい金属光をじっとみつめるかのようにうつむいたまま身じろぎもしない酒井のりP容疑者。
サイレンとパトライトで帰省の大群を押しのけて走ってきた警察車両群も、さすがにインターチェンジ手前では、ゴー、ストップを繰り替えすしかない。
カーラジオをから聞こえる報道で、酒井のりP容疑者の逮捕と護送を知ったであろう周りの一般車の、助手席や後部席の窓が開いて、警察車両群に容赦ない携帯カメラのフラッシュがあびせられる。
一般車をそこのけそこのけで走ってきたワゴン車の車内も、乗車定員いっぱいに警察官と容疑者が乗り、炎天下ののろのろ走行でおせじにも冷房の効きが良いとは言えなくなってきた。
警察官の顔もしっとりと汗ばみだしたインターのゲート付近で、それまで寒そうにしていた酒井のりP容疑者の小刻みな震えも止まり、うなだれた細い首がこっくりこっくりと揺れ出す。
『シャブの効きはもう切れているようだな』
担当刑事がぼそっとささやいた。
覚醒剤の効き目と逃亡生活の緊張から、1週間あまりほとんど睡眠らしい睡眠をとってなかった酒井のりP容疑者。
インターチェンジを降りて、自分を護送する警察車両群を待ち構える報道車両とカメラ群のフラッシュをくぐる中、アタマからすっぽりかぶせられた上着の内、つかの間の眠りの夢のなかで、アイドル時代のスポットライトに彩られた栄光が走馬灯のように駆け抜けているのを、ニュースに食い入る誰もが知ろうはずもなく、ワゴン車は警察署の駐車場に吸い込まれていった。
警察署の周囲を取り囲む、報道とヤジ馬の喧噪がウソのように、恐ろしいほど静かな取調室で粛々と酒井のりP容疑者の逮捕取り調べ手続きが始まっていた。
逮捕容疑の内容が確認のため説明され、すでに押収された証拠物件に関して、
『まちがい…ありません』
ふるえる声で答える酒井のりP容疑者。
逃亡、そして逮捕されたときの所持品のひとつひとつが開けられ、記録され、ビニール袋にパックされてお預かりとなる。逃亡中の荷の中には、覚醒剤も用具らしきモノもなかった。おそらく逃亡途中に処分したのであろう。
『次は身体検査だ、服を脱ぎなさい。』
おだやかではあるが冷淡な口調で担当刑事が容疑者に指示をする。
『脱いだ服はここに入れなさい』
脱衣カゴを示す婦人警官に促され、カーディガンのボタンに手をかけようとして、酒井のりP容疑者は愕然と周りを見渡した。
『あの…男性の刑事さんもいらっしゃるんですか?』
『証拠隠滅防止のための身体検査よ。』
酒井のりP容疑者の本筋の質問をハナから無視するかのように、もう一人の若い私服の女性刑事がピシャリと言った。
『そんな…』
ぐるりと警察官に囲まれて、取り調べ室の中心で唖然と立ちすくむ酒井のりP容疑者。
『そんな…!そんなのって…』
『弁護士の接見は48時間後よ!証拠隠滅防止のための身体検査が先なの』
酒井のりP容疑者が言おうとした言葉を遮って、ベテランらしき年上のほうの婦人警官が酒井のりP容疑者の目の前に脱衣カゴを押し出す。
屈辱にクチビルをわなわなと震わせ、うるんだ瞳で自分を取り囲む男性刑事らにどうか部屋を出て行ってくれと懇願するかのように見渡すが、男性刑事らは微動だにしない。
それどころか、酒井のりP容疑者を見る刑事らの目は、口元こそ笑ってないもののあきらかに好奇にギラついていた。
『準備OKですよ』
記録係とおぼしき着席したままの若い男性刑事が、ノートパソコンのトラックパッドを、催促するかのように指でくりくりするのが、酒井のりP容疑者の屈辱を余計にあおった。
『こんなのありえない!黙秘する!弁護士来るまで…』
言い終わらないうちに、逆上した酒井のりP容疑者のほおに、ベテラン婦人警官の平手が飛んだ。
床にくずおれ、頬をおさえて唖然とする以外無いといった酒井のりP容疑者の髪をつかんで、ベテラン婦人警官が栃木のスケバンなまりのような口調で恫喝する。
『何様のつもりだい?このポン中のスベタがっ!』
”スベタ”のところで居合わせた刑事ら全員の口元がプッと吹き出した。怒りと屈辱とで顔を真っ赤にさせた酒井のりP容疑者は、髪をつかまれたまま立たされる。
ベテラン婦警があごをしゃくると、2人の男性刑事が酒井のりP容疑者の手をそれぞれ掴んだ。
『いったああああ〜い!』
『フン』
若いほうの私服の女刑事が鼻先でせせら笑い、酒井のりP容疑者の足元に跪いたかと思うと、奪いとるようにパンプスを脱がせる。
『フェラガモだってさ』
この調子で、カーディガン、スカート、カットソー…と脱がされていく。カットソーのブランドのタグを確認しながら、
『なんか…臭い』
若い女刑事のつぶやきに、
『シャブの汗の臭いだ』
身体検査が始まって初めて男性刑事が口を開いた。
そういえば逃亡中酒井のりP容疑者は、身体から必死に薬物を抜こうと、水をガブ飲みし、ラシックスを飲み、サウナに入って…を繰り返していたが、逮捕の3日前からは倦怠感にさいなまれ身を隠すのにせいいっぱいで、ロクにお風呂にも入っていない。
手を掴んで抑えられていた酒井のりP容疑者の力も次第に抜け、ひっくひっくと鼻をすすりだしたかと思うと、急にしくしく泣き出した。
『じ、自分で脱ぎます』
とは言ったものの、パンティとブラジャーだけになった酒井のりP容疑者は、しくしく泣きながら立ちすくむばかりである。
そして泣いたことで少しづつ冷静さをとりもどす酒井のりP容疑者に、その先を脱ぐことを急かさない刑事らの態度が、むしろプレッシャーとしてのしかかるのであった。
(仕方ない…私が悪いんだもの、シャブなんかに手を出して…)
心の中でつぶやき、なんとか気持ちを奮い立たせて、ブラジャーのホックに手をかけた。
逃亡中、着替えなど持たず、また足がつくのを恐れて途中で買い物など出来ず、1週間のあいだ着たきりスズメで、ブランドものの洋服はくたびれ、下着も同様にうす汚れかけていた。
ブラジャーのホックに手をかけたままためらうが、酒井のりP容疑者と目があったベテラン婦警の恐ろしい目に睨まれ、ホックを外したとたんブラジャーを床に落としてしまった。
『あっ!』
反射的にひろおうとするが、それよりも先に若い女刑事が取り上げる。
『ラ・ペルラぁ〜?』
女刑事の声色には、若干のイラ立ちがうかがえた。
ブラジャー1枚が3万円以上する高級ブランドなのである。
身体に触れこそはしないが、鼻息を荒くし、目をギラギラさせて見つめる男性刑事達の視線にいたたまれず、酒井のりP容疑者は思わず乳房を手で覆って背中をまるめる。
ぴしいいいいいっ!
『きゃあっ!!』
その手に、ベテラン婦警のムチが飛んだ。
『さっさとパンティも脱ぎなっ!』
わなわなと酒井のりP容疑者の唇が震えた。かろうじてパンティのウエスト部分に手をかけ、背中を丸めるが…そこで動きが止まる。
その前に仁王立ちしたベテラン婦警が自分の手にムチをぴしんぴしん鳴らしながら、
『早くして』
と、威圧する。
そして、早くと促す婦警の言葉にうなずきながら、この取調室の男性刑事たちは、さも面白い見せ物のように、酒井のりP容疑者が裸にされていく過程を楽しんでしるのだ…
恥辱に唇をきつく噛み締めた酒井のりP容疑者の腰から、自らの手でパンティがすべり落ちる。
ブラジャー同様、間髪入れずに若い方の女刑事がパンティを酒井のりP容疑者の手から奪い、裏返してブランドタグを確認する。
(おそろいの上下なのに…)
しかしその素早い動作のなりゆきの中で、裏に返されたパンティの汚れたクロッチ部分が目に入った瞬間、
『やめてっ!』
羞恥に頭の中が真っ白になり、思わず奪い返そうとして、
ぴしいいいっ!
『証拠隠滅?それとも公務執行妨害?』
ベテラン婦警にはたき倒されてしまうのであった。
床にくずおれ、丸めた背を震わせて泣く酒井のりP容疑者の耳に容赦ない追い打ちの声が響く。
『ブツを隠していないか、口の中とアソコとおしりの穴を調べさせてもらいます。それから覚醒剤使用の検査として尿検査。証拠を隠滅しないよう、おしっこはここにするのよ』
唖然として顔をあげた酒井のりP容疑者の目に飛び込んできたのは、若い女刑事が持って来た、冷たく輝くステンレス製の洗面器であった…。
何時間かの押し問答の末、酒井のりP容疑者はついに逼迫する尿意に負け、ステンレスの洗面器をまたいだ。
しかし、下腹部の張りが見て取れるほどの尿意でも、いざ衆人環視の異様な場ではなかなか簡単に出るものでは、ない。
化粧の崩れた酒井のりP容疑者の額に脂汗がにじむ。
そのみじめな姿に、容赦ないカメラのフラッシュがたかれる。
『やめて…な、なんで…こんなところまで写真に…』
『検体がまちがいなくアナタのだって証拠なのよ』
酒井のりP容疑者をかこむ、取り調べ室の人の輪がちぢまった。
鏡のようにピカピカの洗面器の底に、刑事たちのギラギラとした視線が集中しているのだ。
『あぅッ…いやっ!ああああああ〜〜〜〜見ないでぇッ!』
洗面器に激流がほとばしるのと同時に酒井のりP容疑者は顔を手で覆った。しかし0,5秒後にはその手は2名の刑事につかまれて、まるでNASAにつかまった宇宙人が洗面器をまたいでおしっこしているような姿に、
『検体がまちがいなくアナタのだって証拠なのよ』
正面からカメラのシャッターをきる若い女刑事は、楽しそうに復唱した。
(陽性反応なんか出るもんですか…あれだけ抜いたんだもの)
科捜研にはこばれる、たっぷんたっぷんの洗面器を見送った酒井のりP容疑者は、肩で息をしながら心の中でうそぶいた。
記録係の刑事にうながされ、着席する。
(ちくしょう…黙秘してやる、こんな取り調べありえないわ)
身をさいなむ尿意から開放されたぶんホッした酒井のりP容疑者は、足を組んで座り腕を胸の前で組んで、取調室の刑事たちを睨みつけた。
『科捜研ですけど』
ノックの音が鳴った。
酒井のりP容疑者と同年代くらいの、白衣の女が入ってきた。
『さきほどいただいた、薬物の履歴を調べるための検体ですが…』
身体検査の前に、採取しやすいものからと、酒井のりP容疑者の頭髪がひとふさ切られて提出されていたのだ。
『2〜3日前にカラーリングされてるわ、薬品処理をくぐっているから、正確なデータがとれないの』
『じゃあ、染めたりしていない…別の体毛が必要?』
男性刑事の一人が白衣の女に返答した。
『そう、身体の部位によって差異はあるけど、体毛は1ヶ月で約1cm伸びるって考えてもらっていいわ』
『だから例えば6cmあればおおよそ半年分の薬物使用の履歴を調べることが出来るのよ』
きょとん?とした酒井のりP容疑者の周りで、刑事達が白衣女の科学的な説明に頷いた。
白衣女は、酒井のりP容疑者を指差して言い放った。
『この方の陰毛を提出していただけないかしら?』
約1秒、取り調べ室の主役である酒井のりP容疑者の周りの空気がピキーンと凍った。
次の瞬間、酒井のりP容疑者は真っ赤な顔で白衣女に襲いかかった。
『てめぇ!冗談も休み休み言いやがれ!』
しかし当然のごとく、酒井のりP容疑者の怒りの鉄拳は白衣女に届かず寸前で刑事らに制圧される。
床に押さえつけられた酒井のりP容疑者の顔の前に白衣女がしゃがみこみ、手を合わせて言った。
『科学が真実を証明するのよ。お願い、のりPさん、あなたのアソコの毛をちょうだい』
酒井のりP容疑者に正面から眼を合わせて、白衣女はよどみなく言い放った。
『ふ…ふざけんな!』
酒井のりP容疑者は白衣女の顔に唾を吐きかけた。
『反抗的な態度は公務執行妨害よ!』
ベテラン婦警が、酒井のりP容疑者の尻をムチでばしんばしんしばきたおす。
『きゃああああっ!』
しかし白衣女はそんな騒ぎをものともせず平然と、
『すこじまクン、検体採取の用意おねがい』
同じく科捜研所属の部下に指示を出した。
『ハイ主任、バッチリっすよ』
トレーの上には、”検体採取”のための道具がキチンと揃っている。
『おい、科捜研に出す重要な検体だぞ』
刑事の中でもっとも上級の役職と思われる男の声を合図に、
『1、2、3!よぉ〜いしょっ!』
酒井のりP容疑者の身体がみこしのように宙に浮いた。
取調室の机の上に酒井のりP容疑者が大の字で押さえつけられる。
『ちくしょう!てめえら…おぼえてろ!』
大人数の屈強の刑事たちに抗えるハズもなく、ただ罵詈雑言でわめきちらすばかりの酒井のりP容疑者。
『大事な証拠よ、1本残らず採取して』
『ハイ主任』
『ふざけんな!こんな取り調べがあるかよお!』
『動いちゃだめ!大事なところに傷がつくわよ』
『やめてえ〜〜〜!』
『おしりの穴の周りも残らずよ』
『いやああああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』
淡々とした白衣女の声と、酒井のりP容疑者の悲鳴と、じょりじょりじょりじょりというカミソリの音だけが取り調べ室に響いていた…。
泣いても叫んでも騒いでも…”検体採取”は完了した。
疲れ果てたのか、気力も萎えたのか、ぜいぜいと肩で息をしながら呆然と天井を見つめる酒井のりP容疑者の目に、青白い蛍光灯が眩しい。
『奥まできちんと調べろよ』
『ん?この…白いのは…』
ぺろりと指先を舐めて、たたきあげのベテランらしき初老の刑事が呟いた。
『シャブだ…』
おわり
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